安東みきえ 文/吉田尚令 絵
『星につたえて』(アリス館)

星につたえて [ 安東みきえ ]


遠い昔。
生きものといえば、海のクラゲしかいなかった頃のこと。
夜の海で出会った、クラゲとほうき星。
「フワリとして、透きとおっているところは、月よりももっとすてきです」
「いえ、星さん、あなたこそどうどうとしてりっぱです」
ずっとひとりぽっちだった2人は、空のこと、海のこと、互いが知らない美しい世界の話に胸をときめかせます。それはまるで夢のような一夜でした。
でもそんな幸福な時間にもやがて終わりがきます。
夜明けとともに星はかすんでいきました。
「今夜もまた会えますか」
クラゲは尋ねます。
でも、ほうき星がまたここを通るのは何百年も先のこと。
「そのときにはまた、おしゃべりをしてくれますか」
クラゲは最後に何か大事なことを言おうとしましたが、胸がいっぱいで肝心の言葉が出てきませんでした……。
それからずっとクラゲは海を漂います。やがて歳をとり、その言葉は子や孫、そして姿を変えた仲間たちにも伝えられていきます。「いつかあの星に会えたとき、つたえておくれ」
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長い長い時間の流れから見れば、ほんの一瞬。でもそこで芽生えた本当の気持ちには、時間など簡単に飛び越えてしまえる強さがあります。
思いを素直に伝えることの大切さ。
今、この瞬間を逃せば、永遠にその時は来ないかもしれません。
でも言えなかったことを後悔するのではなく、いつか必ず届くと願い続ける。
そうすればきっと、伝わることもあるはずです。
だいすき。
その一言を誰かに贈ってみませんか?
