●最果タヒ『天国と、とてつもない暇』(小学館)

「体温で沸騰して、目からは落ちないまま終わった私の涙が、太陽の残り香みたいに全身に回っていく。」
最果タヒの言葉はいつでも自由で、捉われない。
浮遊しているようで、どっしりと染み込み、脳内も体内も駆け巡る。
ああ、言葉ってこういうことだ。生きている。
●吉田篤弘『おるもすと』(講談社)

崖っぷちの家に住む「こうもり」と呼ばれる男。
ショートを守るのが好きで、拾った新聞は一文字残らず読み、パンツは3枚しかないがハンカチは7枚持っている。
彼は思う。「もうほとんど何もかも終えてしまったんじゃないか」。
手に取った瞬間から、もうこの世界の住人になった。
●少年アヤ『ぼくは本当にいるのさ』(河出書房新社)

透明人間になりたいと思ったことは何度でもある。
でもそれはそんなに簡単なことじゃない。
世界と自分は繋がっていて、人もモノも、現実の空間に引き留める。
ポケモン、セーラームーン、おままごと。
骨董品屋で出会う、朧げでいて確かな、いくつもの記憶。