梨木香歩 著、小沢さかえ 画
『ヤービの深い秋』(福音館書店)

ヤービの深い秋 (福音館創作童話シリーズ) [ 梨木香歩 ]
ヤービはふわふわの毛につつまれた、ふしぎな生きもの。
冬ごもりに使うため、まぼろしのキノコであるユメミダケを探す冒険に出発します––。
ページをめくれば、そこはもう彼らの暮らすマッドガイド・ウォーター。
水の冷たさや木々のざわめき、通り抜ける風など、まるで自分がそこにいるかのように、ありありと世界を感じることができます。
〈ヤービはマミジロ氏の『めいそう』のじゃまをしないように、いそいで外へ出ました。それから、心のなかで、『めいそう』って何かしら、と思いましたが、たぶんお昼寝のことだろうという気がして、それきり忘れてしまいました(そういうふうに、わたしたちは、早のみこみして、ずいぶん長い間ことばのまちがった解釈をしていることがありますが、それも、たのしい失敗のひとつではあります。いつか正しい意味がわかったとき、おどろきとよろこびがひとしおですからね。〉
心にすっと染み込んでくる、優しく、豊かな語り口。
そして魅力的な挿絵の数々は、ヤービたちの姿を生き生きと描き出します。
児童書好きの人にとっては、見返しに物語の舞台の地図が描かれているのも嬉しいですね。
ザワザワとした心が鎮まるような、全てを忘れて没頭できるような、そんな幸福な読書のひとときです。