上村亮太
『アネモネ戦争』(蝙蝠社)

遠いむかしのこと。
人々は野に咲く小さな花に「アネモネ」という名をつけました。
アネモネの種は風にのって旅だち、あちこちで花を咲かせます。そうやってその種類を、少しずつ少しずつ、増やしていきました。

人々は、アネモネの花をだんだん好きになり、やがて自分の手もとにおいておきたい、と思うようになったのです。
ついには街中に、新しい種類の、様々な花が咲くようになりました。
そんな中、ある国の欲ばりな王様が、学者を呼んで命じました。
「わが国だけに咲くアネモネを作れ。それだけではない。それは世界でいちばんきれいなアネモネでなくてはいかん。
その花も種も球根も、私だけのもの、わが国だけのものだ。作りかたの秘密は、決して、だれにももらしてはならん」

こうして生まれたアネモネを、王様は誰にも見せず、ひとりだけで楽しんでいました。
ところがある日、強い風が吹き、その種が国境を越えて隣の国まで飛んで行ってしまいます。
「アネモネの秘密を守るための戦争だ!」
人々がよく知らないうちに、突然戦争が始まりました。
でも、誰もどこで何が起こっているかわかりませんでした。
それはすぐには目に見えなかったからです。
そのうち、街のなかからは、少しずつ人がいなくなり、笑い声も少なくなっていきました。
人々は、いつしか、もっと黙るようになっていきました。
そして自分の目で見ようとすることも、戦争について考えることも、やめました。
自分だけが安全だったらいい、と思うようになりました。
……でも、それこそが、「戦争」だったのです。
そんな日々が続いた、ある晴れた日のこと。
どこからか声が聞こえてきました。
誰に、何を呼びかけているのでしょう。
その声は風にのって、遠くへ遠くへと、はこばれていきました……。
アネモネには「風の娘」という意味があります。
私たちも一輪のアネモネのように、この世界に、風にのせて届けられる言葉がある。
かかげるべき「のろし」がある。
そんな願いと想いを込めて作られた、一冊の絵本。
美術家・上村亮太氏の直筆イラストと特製ケース入り。
限定500部。
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