『本屋がなくなったら、困るじゃないか 11時間ぐびぐび会議』(西日本新聞社)

本屋がなくなったら、困るじゃないか [ ブックオカ ]
相次ぐ書店や取次の廃業、情報ソースの多様化による雑誌不況や本離れ、Amazonをはじめとするネット書店の脅威、電子書籍による“紙の本”の減少……。
今さら挙げるまでもなく、出版界を取り巻く環境は、この数年、いえ、もっと前からこのような「出版不況」を表すワードとともに語られます。
「本を売る・つくる仕事はこんなに面白いのに、なぜネガティブな話題が多いのか。」
書店・取次・出版社という業界3者の面々が、そんな素朴な疑問から出発しつつ、構造的な問題を徹底的に“明るく”“未来に向けて”話し合った、2日間・計11時間の記録が本書です。
大学卒業後に出版社の営業として業界に関わったのはもちろん、書店や取次でも働いた経験のある者として(そしていまは独立して本屋をやっています!)、本書はとても興味深く読むことができました。再認識や再確認、そして新たな気づきの機会となりました。
機能不全に陥っている、旧態依然とした流通の仕組み。
見計らい配本、希望数が入荷しない実情、それを見越した発注から生じる無駄、返品率。
書店が欲している情報と、出版社から提供される情報の落差。
増加しつつある、直取引や注文出荷制について。
現行の仕組みにおける、新刊書店開業、新規参入の難しさ。
取次の信認金や配送コストの問題。
書店が扱う商材の多様化や、展示・イベントのこと。
ひとり出版社の多様性について。
ここに挙げただけでも車座トークの話題は多岐にわたります。
業界について話し合うイベントなどは数多くありますが、ここまで広くかつ具体的に話されることは少ないのではないでしょうか。
それは時間や進行上の制約によるところもありますが、既に話し尽くされている自明のこととして扱ってしまう話題が多い、という面もあります。「そもそも論」から始まる議論は、行きつ戻りつしながらその理解を深めるのには大いに役立ちそうです。
当店と1日違いでオープンされた荻窪の「Title」さんの開業話は、個人が本屋を始める際の大きなヒントになります。具体的な数字や取次との折衝の話が入ると、個人店の開業を現実のものとして捉えることができます。
そして諸外国、特にドイツの出版をとりまく状況は、今後の業界を考え、良い方向に向かう上での大きな示唆でした。刊行のサイクルや粗利の面、書店員の教育など、日本が学ぶべき多くのことがそこには込められています。
本書の後半には、現在の業界のキーパーソンや若手書店主のインタビューや寄稿があり、硬直化している出版界の新たな可能性、胎動を感じることができます。そこには「光」を見ることができました。
しかし同時に、その元にある危機感や閉塞感などもひしひしと感じられます。
ネガティブかどうか、という見方ではなく「出版界、ひいては本を取り巻く環境を大きく変えねばならない」、
という事実は確かにあるように思います。
最初に本書のタイトルを見た時に、「そうだそうだ!」と思う自分と、「果たして本当にそうだろうか?」と思う自分がいました。自分が本屋であること以前に、読者として身近に本屋がなくなってしまうなんて考えられません。ですが、大多数の人にとってもそれは同じことでしょうか?
欲しい本はAmazonに頼めば翌日、早ければ当日に自宅に届きます。
書店で本を買うのなら、広い店内を探したり、店員に尋ねたり、レジに並ばなくてはなりません。
ネットであれば、検索してクリックするだけなのでわずか数十秒から数分で済みます。
書店で本を買うのなら、雨の日や荷物の多い時にわざわざ持って帰らなくてはなりません。
ネットであれば、誰も手にしていないキレイな状態の本が玄関まで届くのです。
効率だけ考えれば誰だって書店を利用しないでしょうし、そこで情報だけ得てネットで買う人も当然いるでしょう。
そしてそもそも今の書店で売っている「本」というもの自体を買う人もますます減っていくでしょう。
そんな時代に「本屋がなくなったら、困るじゃないか」というのは大げさというか、時代錯誤と思われてしまっても仕方ありません。
本屋が無くて、一体誰が困るんですか?
それは既存の出版業界の内側にいる人だけではないんですか?
と。
何千という町の書店が潰れて、それで日本人の何かが大きく変わったかどうかなんて誰も証明できません。
閉店情報を知ってようやく押し寄せる人は、まだ本を愛している人たちです。
そして書店で本を買わなければ、その書店が死んでしまうのだということをそこで実感します。
でも多くの人にとって、そういったことは自分の関心の外にあるのではないでしょうか。
むしろ新しくコンビニやファミレスができれば便利と思う人も大勢いるかもしれません。
悲しいことですが、本に関心がない人にとって、書店は目にも入っていないのだということを認識しなければならないようです。
だからこそこの本には、業界の人が読んでなんとなく満足するような“内向き”の本になってほしくないのです。
「えっ?なんで?」と思われてもいいから、関心のない人にまずは目に留めてもらうこと。
そのためにはチラシでもポスターでも広告でも、ぜひやっていただきたい。
出版社だけでなく、本の世界に関わる人ができるだけこの本を露出させることで、街中、そしてweb上でもこのコピーがあふれたら何かが変わるきっかけになるように思うのです。
そしてそれと同時にそれぞれの書店・本屋が、その場所を魅力のあるものにすること。
本の並べ方、商材の多様化、地域との関わり、その空間をつかったイベントなど、出来ることは無限です。
書店という場所は、誰にとって、どういう意味のある場所なのか?
そもそも個人の“本屋”の場合、場所をもっていることは本当に必要なのか?
そういった問いを続けながら日々歩んでいかねばなりません。
そしてその答えを見てみたい、本と本屋の未来を楽しみたい、と思っています。
まちに書店が無くて、本屋がいなくて、本が読まれない未来なんて全く見たくありません。
だから、どんなに時代遅れでもやっぱり叫びたいのです。
「本屋がなくなったら、困るじゃないか」と。