2017年01月10日

開店一周年にあたって

東京・谷中の本屋ひるねこBOOKSです。

おかげさまで当店は明日1/11に開店一周年を迎えます。
たった1年。されど1年。
本当にあっという間の1年間でしたが、まずはここまでたどり着いたことに胸をなでおろしています。

明日の夜にはまた違った感慨が湧いてくるはずなので、
今の様々な思いを忘れないために、あえて一周年前日である今日、この文章を書きました。

思い返せば1年前。
準備期間中は、期待や楽しみよりも、
「本当にお客さんが来てくれるのだろうか?」「本屋としてやっていけるのだろうか?」
と、考えていたのはそんなことばかり。

開店日には本当に多くの方が駆けつけてくださり、無事にスタートを切ることができました。あの日のことは今でもくっきりと脳裏に刻まれ、安堵と喜び、そして緊張がない交ぜになった気持ちをはっきりと思い出すことができます。
とはいえ、多くの方から注目されての船出というわけではありませんでしたから、その後は知り合いや地元の方、開店前の連載やSNSを見た方が少しずつ来てくださるという感じで、ゆったりとした立ち上がりでした。

それでも、営業を続ける中で多くのご縁やご協力をいただき、展示やイベントなども定期的に開催することができ、開店前には考えられなかったくらいに様々な出会いを体験することができました。
また地元の、特にお母さん方の口コミのおかげで絵本を買いに来てくださる方が増えたり、各種メディアで取り上げられる機会も増え、ようやく地域の方、本好きな方に知られてきたかなと感じています。

よく「まだ1年目なの?」「もっと長くやっているように感じる」と言われることがありました。
もし、この日々を充実したものとして感じていただいているとしたら、それは決して私個人の力ではなく、たくさんの繋がりのなかで生み出されたものに他なりません。
支えてくださる皆さんには本当に感謝していますし、それがあったからこそ無事に1年を走り抜けることができたと感じています。


ですが、この1年を振り返ってみれば、当然甘い話ばかりではありません。

忘れもしない、売上0だった日のこと。
開店前に古本屋の先輩方から「そんなのはザラだよ」と言われていたにも関わらず、ついにその日がきたかと絶望的な気持ちに。特に2月は寒いし、人通りは少ないしで、孤独感に押しつぶされそうな時もありました。朝起きて店に行くのが億劫になったことも一度や二度ではありません。

「1年目はきっと毎月赤字だな」と考えていたものの、幸い3か月目からは微々たる利益を出すことができています。本や雑貨を仕入れて、売る。そこから生まれる小さな利益が積み重なって、家賃を払い、光熱費を払い、その他もろもろの費用を支払って、なお手元に少しのお金が残るということは、経営の素人からすればまだまだ信じられませんし、大変にありがたいことです。

とはいえ、それは自らの生活を保証できるものではまったくありません。
元々、夢を叶えて自分の店を持ったというわけではなく、まして副業や趣味でもありません。

店を構えて本屋として生きていく道があるはずだ、そうでなければおかしい、という根拠のない自信や理想を求める思い。
もっと本屋を増やしたい、そのために何か参考になることができれば、という願望や実現欲求。
本を売る場にいない人間が「本が売れない」と嘆いても仕方がない、ならば一度やってみよう、という挑戦の気持ち。

そういったものを胸に抱えて店を開いた身としては、やはり最低限生活できるだけの収入をこの空間で確保せねばなりませんし、それができなければ当然続けていくことはできません。

また、モチベーションの問題も出てきます。
正直なことを言ってしまえば、開店して数日で気持ちが萎んで、飽きてしまったのです。
非日常が日常になってしまった時の虚無感、虚脱感。
準備期間はひたすら開店に向けて集中するのみでしたが、いざオープンしてしまうとただ座ってPCを眺めたり本を読んだりしながら、たまに接客をしているうちに1日が過ぎてしまい、一体自分はここで何をやっているんだろう、という焦燥感、不安感に苛まれました。多くの反対を押し切ってまで出版社を辞めて、違う視点からこの業界を見たいと思ったのにも関わらず、果たして今の自分は一体どれだけの貢献をしているのか、という自己嫌悪にも陥りました。

よく「飽きない=商い」などという言い方をしますが、当初の自分にはそんな気分などまったくなく、まわりに人がいないこと、営業職だった会社員時代とは異なり自分からどこかに出かけていけないことが、あまりに刺激がなく、つまらないものに思えてしまったのです。もちろんそれまでとは逆の立場で、人に訪ねてきてもらえるという新鮮味もありましたし、自分が仕入れたものを買ってもらえるという今までにない喜びはありましたが、その繰り返しをどれだけ楽しんでいけるのかといった不安も常につきまとっていました。


そんななか、2月に登壇したトークイベントで、他の本屋さんが「自分が飽きないようにいろいろなことをやっている」と言うのを聞いて、得心すると同時に「自分が面白いと思うことをやって、人に来てもらえばいいんだ」ということに改めて気付かされます。

それまではやりたいと思ったことをなんとなくリストにしていただけでしたが、そのイベントの後は具体的に計画を練ったり、作家さんへ声をかけたりして、商品を売るだけではないこの空間の使い方が徐々に定まっていったような気がします。また面白そうなことをやったり発信していると声をかけていただけるもので、その後は切れ目なく展示やイベントを開催することができ、それがある程度、本や雑貨の売り上げに結び付くことも増えました。「人が人を呼ぶ」というのはまさに本当で、つくづく縁というものの大切さを噛みしめました。


いつまでやるか、やれるか、やりたいか。
きっと店を営んでいる人は、多かれ少なかれ同じようなことが頭を巡っているのだと思います。
日々の売り上げや様々な事柄に一喜一憂しながらも、そういったことを意識しなかった日はありません。店としては着実に積み重ねができ、少しずつ前進をしながらも、日々じりじりと後退しているような感覚さえあります。

それでも続けていると思わぬ嬉しい出来事や奇跡的な瞬間にもめぐり逢い、もう少し頑張って続けたいという意欲や熱意を取り戻します。

始めることは誰にでもできるが、続けることが難しい。
始めることで生まれた責任を、どのように消化し、乗りこなしていくのか。


まずはあと2年。長年の夢や目標ではなく、勉強という意味でこの場所をつくった自分にとって、それは現実的な時間です。ちょうど3年を迎えるまではいまのかたちで続けていきたいと思っています。
そのあとこの店をどのようにするのか、営業の仕方を変えて続けるのか、そうでないのか、今はまだ決めていません。もちろんあと2年の間に、想像もつかないようなことが起こるかもしれませんし、その時々で働き方も変わるかもしれません。

まずは今できることに必死に取り組み、もっともっと多くの方に本を届けたい。
そのためにはまだまだ工夫と改善の余地があります。
仕入れにしても、売り方にしても、ディスプレイや諸々の環境整備などもそうでしょう。
自分自身が方々に出かけ、知識を得て、常に新鮮でいられることも大切です。
そして、ただ商品を売り買いするだけではなく、この場所を楽しんで使っていただけるようにしたい。
そしてそれは自分が楽しく、意味があると信じられることで。

ひるねこBOOKSをオープンするにあたって考え、こうありたいと願ったのは、
・人と本とのつながりをつくること
・人と人とのつながりをつくること
・平和な社会をつくること

当店をキッカケにオープンした本屋もありますし、普段は本を読まないけれど久々に本に触れたという方もいらっしゃいます。まったく知らなかった人同士や長年会っていない人たちが、当店の展示やイベントでつながったり再会したりということも目の当たりにしてきました。そういった意味では実感できることもありますし、それなりにお役に立てているのかなと感じることもあります。

しかしながら、あまりに漠然とした「平和」についてはどうでしょう。

いま世界は不寛容という名の翳に覆われつつあります。
強者が弱者を貶め、多数派が少数の人間を攻撃する。
自分のもつ価値観以外は認めず、情報をシャットアウトし、時には逆上し、「我々こそ正義」と主張する。
そのような波が押し寄せ、多くの人の足をなで、さらっていく予感に満ちています。
一体人間はこれまで何を学んできたのでしょうか?
憎しみ、争い、競い合うことがどれだけ無意味で無益なことか、感じとることもできないほど愚かなのでしょうか。

一方では新しい時代の到来を感じている人々もいます。
全ての人が分け隔てなく対等に付き合い、お互いの弱さを補い合うこと。
恐れからではなく、愛をもって行動すること。
私たちがこれまでに学んだことを生かし、次の段階へと歩みを進めるべき時がきているのです。

そんな未来に対して、小さな本屋ができることはどのようなことでしょうか。
自分のような無力な人間にできることは限られているかもしれません。
それでも、本屋という誰に対しても寛容な場所は、小さな種を蒔くことができるのではないでしょうか。
悲しみや憎しみの波に流されない、強く根を張る何か。

開店前の連載にも書きましたが、私は花森安治のこの言葉を大切にしています。

「戦争に反対するというには、反対する側に、守るに足るものがなくちゃいかんのじゃないか」


誰かの思い出や歴史がつまった古本を買い取り、売ること。
今の世に問うべく生まれた新刊を、自分の目で選び、売ること。
丁寧につくられ、生活に彩りを添えてくれる雑貨を売ること。
熱意と希望と可能性があふれる、作家さんの手づくりの作品を預かり、売ること。
そのすべてに意味があり、楽しさがあります。

展示が線だとしたなら、イベントは点。
それらを包括する「面」そして立体的な「空間」として存在し、誰かの心にすっと入り込み、そこでも確かにあり続けること。


守るに足るものを生み出すため、そして伝えるために。
例え力及ばずとも、今為すべきことのために、明日からの日々も続いてゆくのだと思います。


長くなりました。
最後に改めて御礼と感謝を。

多くの方のおかげでまずは1年を終えることができました。
心より感謝申し上げます。
2年目も引き続き、温かくも厳しい目で見守っていただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


ひるねこBOOKS
小張隆

https://www.hirunekobooks.com/

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posted by ひるねこ at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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