『北欧 木の家具と建築の知恵』
長谷川 清之 (誠文堂新光社)

北欧 木の家具と建築の知恵 北欧デザインのルーツはここにあった [ 長谷川 清之 ]
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ノルウェーのある野外博物館を訪ねた時のこと。ガイド役の若い女性が古い民家の入口脇で曲がりくねった木の枝を熱心に磨いているのが目に止まりました。すぐに何かに使えるようなものには見えないので、何のために磨いているのか訊ねました。すると、実に素晴らしい答えが返ってきました。
「この木が、いつか私のために役立ってくれるかもしれないから……」
(本文より)
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フィンランド、スウェーデン、ノルウェーを中心とした、北欧の木造家具や建築を長年研究してきた著者は、この言葉に身震いしたといいます。
有名な話ですが、北欧には「自然享受権」という考えがあり、ルールさえ守れば誰もが森に入ることが許されます。「森は万人のもの」という思想があるからです。
私たち日本人も歴史的に木との関わりが深く、森への親しみを持っています。しかしながら近年しばしば取り上げられるような、古民家や木製家具といったブームは、木を育て、それを育むというところまではなかなか行き着かないよう。日本の森は手入れがされないため、70%が“死の森”となっているとも云われるようです。
商業主義に走るのではなく、この先何十年、何百年、木とともに生きること。
木を如何に思い、どう寄り添うか。
家具、建築、楽器、身の回りの品々といった人工物の中に、どのように自然の木を活かしていくのか。
北欧デザインの根底にある思想を、この本を通して垣間見ます。
自然からの贈り物とそれを活かす確かな技術。
『あるノルウェーの大工の日記』にも通じます。