ヒラリー・レイル 著、林 真紀 訳
『キッズライクアス』(サウザンブックス社)

キッズライクアス [ ヒラリー・レイル ]
自閉症スペクトラム障害の高校生マーティンは、映画監督である母親の仕事の都合で、夏休みをフランスの田舎町で過ごすことになった。
生まれて初めて「普通の高校」に通った彼は、そこで出会った1人の女の子に恋をする。
プルーストの『失われた時を求めて』を愛読しているマーティンは、自分を取り巻く世界の多くをこの作品の文脈と結びつけて解釈しようとしがちだ。
最初の頃は、恋に落ちた彼女のことも、周りにいる「普通の友達」も、プルーストの物語の世界の中から見た「空想」の一つでしかなかった。
しかし次第に、それが空想ではなく、生身の人間であることに気づき始めて……。
〈「特別」という言葉は、具体的な意味がよく分からない。僕の心のどこにも引っかからない言葉だ。人はよく僕のことを「特別」と言うが、僕には理解ができない。「特別」という言葉を聞くと、なんだか心がザワザワする。〉
自分と違う誰かを理解するということは、どういうことなのか。
自身も発達障害の子どもを育ててきた翻訳者が原作と出会い、クラウドファンディングによって出版に漕ぎ着けた本書。
他者を理解することは難しいかもしれない、一筋縄ではいかないかもしれない、でも、それでも私はあなたが大好きだよ、と言えることの尊さ。
まだ7月が始まったばかりだが、下半期1番の読書になるかもしれない。
ページを開く前のそんな予感は、間もなく確信に変わろうとしている。
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